リマスタリング盤の音が良くないというとき、 大きな原因のひとつにリマスタリング時のエンジニアの聴感があります。 耳の周波数特性は同じ人でも時によって変わります。 耳そのもののマイクとしての特性はたぶん同じでしょう。 外的な要因で耳の有毛細胞が破損しているということさえなければ。 ダイナミックにガラガラ変わるのは脳の方だと思います。 脳が音声信号を補正補完する訳です。 嫌な音が聞こえなくなるのは、脳のほうでイコライジングしレベルを下げてしまうからでしょう。 嫌な音は聴きたくないから、脳の方でレベルを押さえるようになってくる訳です。 そういう難聴なら環境を変えれば直るはずです。 大都会の騒音のなかで毎日電車通勤という環境では、 脳内イコライザーが田舎の人と比べてかなり違ってしまっている、 ということは十分推測できる訳です。 そういう人がマスタリングをする場合、 その人にとってフラットに聞こえる音は、同じような環境の人にしかフラットにきこえません。 マスタリングする時に耳が疲れていることもあるでしょう。 朝するのか、夜するのか。 スタジオが閑静な郊外にあったとしても、そこへいきなり都会からエンジニアがやってきても駄目なのです。 そこで安静な生活を送り、脳内イコライザーをリセットする時間をとる必要があるでしょう。 だから音響機器や楽器を造る人は、都会の騒音の中で生活していては駄目なのです。 日本のオーディオが駄目な大きな理由のひとつにこの問題があります。

ドライバーホーン派や自作バックロードホーン派や英国ATC派のオーディオマニアの出す音が、 普通の人にとって、カンカンで聴くに耐えないというのも同じ理由です。 たぶんホーン派は、それは作りがわるいからで、ちゃんとしたホーンはカンカンしない、と反論するでしょう。 しかし、カンカンするホーンを一日聴いていればカンカンしなくなってくるのです。これは私も体験済みの事実です。 これは何を意味するのか。ホーンのエージングが進み癖がなくなってきた、と考えがちですが、事実はそうではないかもしれません。自分の耳のほうが変化する可能性を考えたことがあるでしょうか。 あの音はオーナーにはフラットに聞こえているはずです。 しかし自分たちの脳内イコライザーがたいへんなことになっていることに気づいていません。 だから、こうしたホーン派が普通のオーディオを聴くと、よく聞こえない、物足りないということになるわけです。 食事で言えば、塩分のきつい食事を毎日とっていれば、普通の食事では味が無いと思ってしまうのと同じです。 だから、ホーン好きの大音量派オーディオ評論家が音質についてなにを書こうが、 あまり意味はないということになるわけです。

オーディオのいわゆる高級ドンシャリな音ばかり聴いていると脳内イコライザーがそれに対応してきます。 その状態でコンサートにいくと、たいていナローレンジに聞こえます。 コンサートの終わりころにはフラットに聞こえてきます。 この現象にはいくつも原因があるでしょう。 原因として、 録音は空中の一番いいポイントにマイクを置いて録っているから座席の音とは最初から違う、 ということも大きいのですが、 脳内イコライザーが変わっていくこと、 楽器の鳴りが変わっていくこと、 ホールの壁の振動モードが変わっていくこと、 などもあるでしょう。 脳内イコライザーもかなり大きな原因ではないかと思っています。

topic: audio
first posted: 2008-06-24 15:45:46
last modified: 2010-03-12 03:00:31